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トランプ大統領 中東歴訪で巨額経済協定を締結 米国リーダー復権を演出

2025/05/20
更新: 2025/05/20

トランプ大統領は中東歴訪においてサウジアラビア、カタール、UAEと巨額の経済協定を結び、アメリカのリーダーシップ復権と中東新秩序の行方に明確な道筋を示した。本稿ではその外交成果を詳しく解説する。

5月13日、トランプ大統領は最初の本格的な海外訪問先として中東の産油国を選定し、5日間にわたる外交活動を展開した。リヤド(サウジアラビア)からアブダビ(アラブ首長国連邦)そしてドーハ(カタール)へと移動し、総額2兆ドルに達する経済協定を締結した。この成果は、アメリカの世界的リーダーシップ復活を明確に示すものであり、トランプ氏の「取引外交」は新たな段階へと進化した。

この外交行動は熱気を帯びた政治ショーであると同時に、地政学的な駆け引きの場ともなった。中国共産党(中共)とロシアは周辺に押しやられ、トランプ大統領は中東を起点として世界の繁栄と安全を主導する姿勢を明確に打ち出した。

超高規格の外交儀礼 トランプ大統領 世界の舞台に再登場

5月13日、リヤドの朝は砂漠特有の乾燥と熱気に包まれていた。エアフォースワンが着陸し、ドアが開くと、サウジのムハンマド・ビン・サルマン王太子(MBS)が伝統衣装でタラップ下に立ち、トランプ大統領と直接対面した。背後にはラベンダー色のカーペットが敷かれ、王家の儀仗隊が剣を携えて整列し、21発の礼砲が空を揺らした。

トランプ大統領がタラップを降りて王太子と笑顔で握手を交わした瞬間、この光景は瞬時に世界中のメディアでトップニュースとなった。

同行者は極めて豪華な顔ぶれであった。マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、スコット・ベッセント財務長官に加え、イーロン・マスク氏(テスラ・SpaceX)、ジェンセン・フアン氏(NVIDIA)、スティーブン・シュワルツマン氏(ブラックストーン)、さらにボーイングやロッキード・マーティンの幹部たちが名を連ねた。この顔触れにより、今回の訪問は単なる国賓外交にとどまらず、テクノロジーと資本、そして権力が交差する世界的祭典と化した。

サウジの「アラブ・ニュース」は一面論評で「トランプ大統領の訪問は、中東に対するアメリカの誠意と力を示した。説教でも圧力でもない」と記した。この指摘は、トランプ外交の本質 、つまり個人の魅力と取引の知恵を武器に、アメリカの世界的地位を再構築する姿勢 を的確に捉えている。

1兆ドル協定を締結 サウジ 米ハイテクと連携強化

初日のリヤドでは、トランプ大統領とサウジ王太子が6千億ドルの新規協定および1420億ドル規模の武器取引協定に署名した。王太子は、総投資額が将来的に1兆ドル規模に達する見通しを示した。これに対し、トランプ大統領は満面の笑みを浮かべながら「これは始まりに過ぎない。我々は共に努力し、この偉大な目標を実現する」と語った。

投資サミットには湾岸諸国の首脳陣が集結し、トランプ大統領は相互尊重と互恵共栄を軸とする新たな外交理念を提示した。また、サウジ、カタール、UAEの急成長を称賛するとともに、過激なイデオロギーの輸出には厳しい批判を加えた。

トランプ大統領はこう述べた。「過去のアメリカ大統領たちは、外国の指導者の魂を見抜き、彼らの罪をアメリカの政策で裁くという幻想に囚われていた。だが私は言う。裁きは神の役割であり、私の使命はアメリカを守り、安定・繁栄・平和という本質的利益を前進させることにある」

この発言に、会場は雷鳴のような拍手で応えた。

過去数十年にわたり、アメリカ外交は戦争やUSAID(国際開発庁)によって数兆ドルを浪費し、他国に民主主義を押しつける失敗を重ねてきた。インフラは老朽化し、国境管理も混乱を極めた。

しかし今、その時代はトランプ大統領の登場により、明確に終わりを告げた。

フォーラムの成功は、二国間協定の締結にとどまらず、中東の将来像を明確に提示した点にもある。伝統的な産油国は「石油経済」から「イノベーション経済」への転換を急速に進めており、アメリカはこの過程で主導的な役割を果たしている。イーロン・マスク氏やジェンセン・フアン氏といった企業家がAI、電気自動車、半導体といった先端技術を提供し、サウジアラビアなどの潤沢な資本と相互補完的な関係を築いている。

トランプ大統領が第2期の最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだ判断には、緻密な戦略が込められている。

第一に、サウジアラビアは世界の石油市場において「安定装置」として機能し、OPEC+の中心的存在として発言力を保持している。石油は単なるエネルギー資源ではなく、地政学上の極めて強力な手段である。アメリカはサウジアラビアとの間で巨額のエネルギーおよび軍事協定を締結し、両国の協力関係を深化させている。これにより、ドルは石油取引における基軸通貨としての地位を固め、ロシアや中国のエネルギー市場への進出を阻止する体制を築いている。

第二に、サウジアラビアは中東地域の安全保障において鍵となる存在である。トランプ大統領とムハンマド王太子の親密な関係が、アラブ世界におけるサウジアラビアのリーダーシップを強化し、米サウジ同盟の結束を高めている。これにより、イランをはじめとする地域の拡張主義を間接的に抑制する構図が生まれている。ルビオ国務長官は、サミット期間中にフィナンシャル・タイムズの取材に応じ、「サウジアラビアの安定が中東全体の安定につながる」と強調した。

第三に、トランプ大統領がサウジアラビアを出発点とした外交戦略は、世界の同盟諸国に対して明確なメッセージを発信した。アメリカは経済協力と安全保障の確約を通じて地政学的主導権の回復を図っている。バイデン政権の「価値外交」とは一線を画し、トランプ大統領の「取引外交」は実利を重視するアプローチを採用し、人権問題に関しては深追いせず、互恵的な利益共有に焦点を当てている。

この実務的な外交方針は、特にサウジアラビアにおいて顕著な効果を上げており、ムハンマド王太子はトランプ大統領を「信頼できるパートナー」と評し、米サウジ関係は新たな蜜月期に突入した。ワシントン・ポスト紙は、「トランプ大統領はサウジアラビアから出発し、道徳的な説教ではなく、実利と影響力によってアメリカのリーダーシップ復活を示した」と論じている。

これらの事実は、バイデン政権との明確な対照を浮かび上がらせている。2022年7月、当時のバイデン大統領がサウジアラビアを訪問した際には、ムハンマド王太子ではなく州知事が出迎えに現れた。原油価格や人権問題をめぐる対立が影響し、両国の関係は冷却化していた。増産要請は拒否され、王太子の冷淡な対応がアメリカの外交的威信を損なう結果を招いた。

シリア再始動 イラン牽制 トランプ大統領戦略の多方面展開

5月13日、リヤドでの記者会見において、トランプ大統領は世界を驚かせる発言を行った。「アメリカはシリアへの経済制裁を解除し、新政府の自由と繁栄を全面的に支持する」と宣言したのである。

翌14日、トランプ大統領はサウジアラビアにおいて、シリア暫定大統領シャラア氏と会談した。彼はシャラア氏に対し、「シリア国民のために偉大な業績を残す好機が到来している」と語り、さらに「アブラハム合意」への署名を促した。この合意はアメリカ主導の枠組みであり、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化を目的としている。トランプ大統領は、「全ての外国人テロリストに対してシリアからの退去を明言すべきである」と率直に提案した。

アメリカはシリア再建支援の一環として、サウジアラビアおよびアラブ首長国連邦(UAE)との連携を強化し、「シリア復興基金」の設立を計画している。この基金には、初期段階で数十億ドル規模の資金が投入され、アメリカ国際開発金融公社(DFC)とサウジのソブリンファンドが主導役を担う構想となっている。中東の資本を引き寄せ、経済復興を通じて新政府を支援し、ロシアやイランの影響力を段階的に排除する戦略が進行している。

ルビオ国務長官はインタビューで次のように語った。「我々は銃と混乱を市場と機会に置き換えた。これがアメリカが中東の新秩序をリードする方法である」

アメリカは経済と外交の両輪によって、再び世界資本の発言権を握る立場へと進んでいる。

トランプ大統領はリヤド訪問を終えた翌日の5月14日、カタールの首都ドーハに到着し、空港では同国の指導者が出迎えた。

出発直前には、カタールが「空飛ぶ宮殿」とも称されるボーイング747-8型機をアメリカ国防総省に贈る計画が報道された。トランプ大統領はこの機体を大統領専用機「エアフォースワン」として使用する意向を示した。

アメリカ国内の批判に対して、トランプ大統領は「受け取らないのは愚かだ」と述べ、「ボーイング747はアメリカ空軍/国防総省に贈られるものであり、私個人の所有物ではない。これはカタールからの贈り物だ。我々は長年、彼らを守ってきた」と説明した。

ドーハにおいて、トランプ大統領は歴史的な署名式に立ち会った。カタール航空とボーイング社は、最大210機のボーイング787ドリームライナーおよび777X機の購入計画に署名し、総額は960億ドルに達した。これは過去最大規模のワイドボディ機の注文であり、787型機にとっても史上最大の受注である。

ホワイトハウスは、トランプ大統領とカタールの間で2435億ドルを超える協定が締結され、将来的には1兆2千億ドル規模の追加的な経済協力の基盤が築かれたと発表した。

こうした動きに対し、各国関係者の間では次のような感想が聞かれた。「今回のトランプ大統領の訪問は、世界の資本がアメリカの技術に忠誠を誓う分水嶺となった。中東の資金はアメリカの未来に向けて投資されている」

アラブ首長国連邦 デジタル金融とAIの砂漠の新星

トランプ大統領はアラブ首長国連邦(UAE)を次の訪問地とし、5月15~16日にかけてアブダビに滞在した。この砂漠の近代都市は、ハイテク発展と地政学的影響力において注目を集めている。

UAEは以前、今後10年間でアメリカに1兆4千億ドルを投資する計画を公表した。投資の中心分野は人工知能(AI)、半導体、クリーンエネルギー、製造業である。この計画はUAEの「2031年に世界AIハブとなる」という国家ビジョンと一致し、トランプ政権が掲げる製造業・ハイテク分野での再建戦略とも連携している。

5月12日、訪問の前日にはアメリカ政府がバイデン政権による「AI拡散規則」の正式な撤廃を発表し、新たな規則を導入した。その主な内容は、以下の3点である。

第一に、世界のどこであってもHuawei Ascendチップの使用をアメリカの輸出規制違反と見なすこと。第二に、アメリカ製チップを用いた中国のAIモデルの訓練および運用を禁止すること。第三に、第三国を経由して中国に技術が渡る経路を封鎖することである。この政策によって、アメリカ企業とUAEの協力における障壁が取り除かれ、トランプ大統領の訪問にさらなる交渉材料が加わった。

中共を抑え、ロシアに対抗するために、中東が戦略的なレバレッジとなる

トランプ大統領の中東歴訪は、経済・外交の成功にとどまらず、地政学的駆け引きにおいてもアメリカの戦略的リーダーシップを強化し、中共およびロシアの影響力を周縁へと追いやる意義を持っている。

たとえば、サウジアラビアおよびUAEからアメリカへの資金流入は数千億ドルにのぼり、中国企業はハイテクおよびインフラ分野で大きな圧力を受けている。イーロン・マスク氏およびジェンスン・ファン氏の訪問により、AI・半導体・バイオ医薬分野において「脱中国化」の動きが一段と加速している。

サウジアラビアおよびUAEはアメリカの技術を優先的に導入し、中国のサプライチェーンへの依存を段階的に減らしている。シリア再建については、アメリカ主導の「シリア復興基金」が中国企業の参入を許しておらず、イラクおよびレバノン再建における中国の影響とは対照的な様相を呈している。

トランプ大統領はアブダビでの演説において、次のように語った。「我々は、いかなる権威主義体制も中東の資源を通じて自由世界の秩序を破壊することを許さない」

中共やロシアが中東で影響力を保持し続ける可能性は否定できないが、今回の中東訪問はアメリカに確固たる地政学的優位をもたらした。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。