夏になると、冷たいものを求めがちで、脾胃(ひい)が不調になりやすくなります。これは、人体の脾胃は「冬は温かく、夏は冷えやすい」性質を持っているためで、夏は陽気が不足し、腹部が冷えることで、油っこいものや冷たい食べ物をうまく消化・吸収できなくなるからです。
多くの人が「冷たい牛乳」を飲む習慣を持っていますが、牛乳自体がもともと体を冷やす性質があり、気血を冷やす作用を持っています。そこにさらに冷たさが加わると、脾胃にとってはまさに追い打ちをかけるようなものです。脾の陽気をさらに損ない、気血を生み出す力が弱まるだけでなく、寒湿が体内にたまり、さまざまな健康リスクを引き起こす恐れがあります。
そのため、夏の脾胃の状態を正しく理解し、自分の体質に合った方法で牛乳を飲むことが大切です。そうすることで、牛乳の栄養をうまく取り入れ、体への負担を防ぐことができます。
脾胃も鉱山のように——冬は温かく、夏は涼しく
中医学では「脾は後天の本であり、水穀の精微を運化する」とされており、脾陽とは脾臓が正常に働くための“エネルギーエンジン”のようなものです。脾陽が不足すると、脾胃が水穀(飲食物)を消化吸収できず、食べたものが滞って水湿(余分な水分や湿気)が体内に溜まり、腹部の膨満感、下痢、倦怠感などの「湿が中焦(脾胃)を困らせる」症状が現れます。
しかし、多くの人は疑問に思います。「夏は陽気が最も盛んな季節なのに、なぜ脾陽が不足するのか?」と。
これは自然界の陽気が夏には地表や空中に集中し、地下はむしろ涼しくなるのと同じで、井戸や鉱山の中は夏でもひんやりとしています。つまり、自然の陽気は外側・上方に向かい、人体でも陽気は皮膚表面や頭・胸に集まり、汗をかいて体温を下げる役割を果たします。
その一方で、腹部より下、特に脾胃のあたりは「陽気が足りない状態」に陥りやすく、実際にお腹に手を当ててみると冷たく感じることがあります。これはまさに、脾陽の不足と寒湿の内在を示しています。
したがって、夏は暑いとはいえ、人体の内部は「寒さを感じている」のです。このときに冷たい水や牛乳、冷たい食べ物を大量に摂ると、もともと弱っている脾陽をさらに傷つけ、湿気がたまりやすくなり、下痢や食欲不振が悪化します。
これこそが「夏の養生には脾陽を守ることが大切」と言われる根本的な理由です。多くの人は「夏は湿気が多くて食欲がないから、湿気を取り除けばいい」と考えますが、実は寒さが脾を傷つけることこそが、湿気が体内に溜まるもう一つの大きな原因なのです。
暑いからといって、冷たいものを摂りすぎないようにしましょう。
牛乳は性質が冷たく重い——脾胃の寒湿を悪化させることも
牛乳は現代の栄養学では「健康的な飲み物」とされていますが、中医学では体質に応じた摂取が大切と考えられています。牛乳は寒性で、しかも濃厚な質を持っており、もともと陽気が不足し湿気が多い脾胃にとっては、むしろ負担になります。
その結果、消化器系に湿気がさらに溜まり、働きが弱まり、健康を損なう恐れがあります。寒湿体質の人には特に適していないだけでなく、一般の人でも長期間頻繁に冷たい牛乳や冷たい食品を摂ると、脾胃を傷め、身体が栄養や気血を生み出す根本的な力を損なってしまうことにもつながります。
では、牛乳を健康的に飲む方法はあるのでしょうか?
もちろんあります。以下に紹介するのは、牛乳が好きな人向けに、体質に応じて考案されたお茶との組み合わせや飲み方の工夫です。牛乳の寒性や重たさを中和し、脾胃を傷めず、寒湿の悪化を防ぐことを目的としています。
健康で安心な牛乳の飲み方
1. 脾胃虚寒タイプ
手足が冷える、食後にお腹が張る、下痢しやすい人。
おすすめの飲み方:ナツメと生姜のホットミルク

レシピ:
- 牛乳(温める) 200ml
- 種を取ったナツメ 3個
- 叩きつぶした生姜 2枚
作り方:
ナツメと生姜を水で10分ほど煮出し、こした煮汁に温めた牛乳を加えてよく混ぜて飲みます。
調整効果:
- ナツメは胃腸を補い、気を養い、生姜は体を温めて寒さを散らす作用があり、牛乳の寒性を中和してくれます。
- 牛乳を加熱することで濃厚さが軽減され、脾陽への負担も少なくなります。
- 脾胃の陽気が不足している方に適しており、胃の冷えや下痢の改善に役立ちます。
2. 湿熱困脾(脾胃湿熱)タイプ
口が苦い・粘つく、便がゆるい、舌苔が黄ばんでベタつきやすい人。
おすすめの飲み方:炒りハト麦とサンザシのミルクティー

レシピ:
- 炒りハト麦 10g
- サンザシスライス 5g
- 牛乳 200ml
作り方:
ハト麦とサンザシを水で10分煮出し、こした煮汁に温めた牛乳を加えて飲みます。
調整効果:
- ハト麦は脾を強くして湿気を取り除き、サンザシは消化を助けて滞りを改善します。これにより脾胃の通りを良くし、重さや滞りを軽減します。
- 牛乳によって起こる「湿熱がこもる」リスクを和らげることができ、飲んだ後に口の粘つきやお腹の張りを感じやすい人に向いています。
- 食後の摂取が適しており、空腹時の飲用は過剰な消化を引き起こして正気(身体の本来のエネルギー)を傷める可能性があるため避けましょう。
3. 気虚で疲れやすいタイプ
疲れやすい、食欲がない、顔色がくすんで黄色っぽくなりやすい人。
おすすめの飲み方:山芋とハスの実のミルク粥
朝食や午後のおやつにおすすめ

レシピ:
- 生の山芋 50g
- ハスの実 10g
- 牛乳 200ml
作り方:
山芋とハスの実をやわらかく煮てペースト状にし、牛乳と一緒に煮てとろみのある粥状に仕上げます。
調整効果:
- 山芋は脾を健やかにし気を補い、ハスの実は胃腸を整え精神を落ち着ける作用があり、牛乳との組み合わせで栄養の吸収がよりスムーズになります。
- 脾胃の運化能力(消化吸収力)を高め、牛乳を飲んだ後に感じる「胃が張って苦しい」といった症状を防ぐ効果があります。
- 体が虚弱で元気が出ない、長く下痢が続いているような脾虚体質の方に特に適しています。
4. 気滞タイプ
ストレスが多い、胸や脇が重い、ため息が多い、お腹が張りやすい人。
おすすめの飲み方:陳皮ミルクウーロンティー

レシピ:
- 陳皮 3g
- ウーロン茶 3g
- 牛乳200ml
作り方:
陳皮とウーロン茶をお湯で10分ほど抽出し、こしたお茶に温めた牛乳を加えて飲みます。
調整効果:
- 陳皮は気の巡りを良くし脾を整える効果があり、ウーロン茶は半発酵で寒くもなく熱くもなく、気の流れをスムーズにし、胃の重さや牛乳のこってり感を和らげてくれます。
- 牛乳によって起こりやすい「気滞によるお腹の張り」を和らげる働きがあり、特にガスが溜まりやすい、食欲がわかない人におすすめです。
- 空腹時の摂取は避け、茶葉の量も控えめにすることで、胃を冷やしすぎることを防げます。
5. 陽虚で水湿が多いタイプ
舌が大きく歯形がつきやすい、体が重だるい、舌苔が厚く白い人。
おすすめの飲み方:ブクリョウとリュウガンのミルクドリンク

レシピ:
- ブクリョウ粉末 5g
- 乾燥リュウガンの実 3個
- 牛乳 200ml
作り方:
ブクリョウ粉末とリュウガンの実を煮て乳状のとろみが出たら、温めた牛乳を加えてよく混ぜて飲みます。
調整効果:
- ブクリョウは脾を健やかにし湿気を取り除き、リュウガン(龍眼)は陽気を補い心を養う作用があります。この2つを組み合わせることで、湿気を取りつつ中を補い、脾胃を温かく整えることができます。
- 牛乳単体では「湿気を加える」性質がありますが、ブクリョウとの組み合わせによりマイルドになり、安心して飲めるようになります。
- 特に、陽気が不足しがちな女性や、梅雨の時期に疲れやすい人に適した飲み方です。
6. どの体質の人にもおすすめのミルクの飲み方
・牛乳は必ず温めて飲むこと:常温またはほんのり温かい状態が最も適しており、冷たいまま飲むのは避けましょう。
・飲む時間は朝食時か午後のおやつタイムがベスト:朝は陽気が上昇し、午後はまだ冷えておらず、どちらも脾陽の働きを助けます。
・牛乳と大量の果物を一緒に摂るのは避ける:果物は多くが寒性で湿気を助長しやすく、特にスイカやハミウリなどは注意が必要です。
・寒がり体質の人は、その都度、温める食材(生姜汁、ナツメ粉、シナモンパウダーなど)を加えて 冷えを中和することをお勧めします。
結びに
「冬は大根、夏は生姜」ということわざがあります。冬は大地が閉ざされ、人体の陽気も内にこもるため、脾胃の働きが充実し、食欲も旺盛になります。そこで、消化を助ける涼性の大根が必要になるのです。一方、夏は陽気が体の表面に漂い、内側は冷えて虚寒の状態になるため、温かい性質を持つ「生姜」によって陽気を戻し、湿気を散らし、脾胃を整えることが求められます。
このことわざにあるように、生姜は脾陽を補う最も一般的で簡便な食養生法です。牛乳に生姜汁を加えるだけで、寒湿によって脾を傷つけるのを防ぐ簡単な方法になります。
人の身体は「小さな宇宙」であり、自然のリズムと調和しています。夏は外が暑くても内側は冷えやすく、脾陽を守り、湿気を避けることが、この時期の健康管理の要なのです。
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