6月7日、中国で全国統一大学入試「高考(ガオカオ)」がスタートし、1335万人の受験生が、未来を賭けて試験に臨んだ。
試験会場の外には、チャイナドレスをまとった母親──いや、父親までが姿を見せた。縁起を担ぐため「旗袍(チーパオ)」を身にまとうこの風習は、「旗開得勝(またたく間に勝利を得る)」という吉祥語にかけたもので、スリットの切れ込みは「高ければ高いほど良い」とされ、受験生の健闘を祈る親の「最後の願掛け」だ。
しかしその熱気の裏側には、深刻な就職難と教育制度の矛盾がある。高得点を取り、名門大学を卒業しても、将来が約束されているとは限らない。一流大学の卒業生ですら定職に就けず、ホワイトカラーとしてではなく、配達員として日々をつなぐ現実があるにもかかわらず、それでもなお、貧困からの脱出手段として、親たちは「高考」に全てを託す。だが、その圧力が今、子どもたちの心を確実にむしばんでいた。
今年は山東省鄒城市(すうじょうし)の「高考」会場で、受験生が突如錯乱状態になり、自らの答案用紙を破り、周囲の受験生の答案用紙まで奪って破り捨てる「事件」が起きた。原因は過度なプレッシャーとされ、この騒ぎにより試験は、5分延長され、試験を破られた学生は試験やり直しとなった。
目撃者によれば、その生徒は、試験中極度の緊張状態にあり、途中でトイレで嘔吐し、戻ったと思ったら感情が爆発したという。
(2025年6月7日、山東省鄒城市の「高考」会場で、受験生が突如錯乱し、自身と他の受験生の答案用紙を破り捨てる騒動が発生)
かつて教師だった田氏はエポックタイムズの取材に対し、「中国共産党(中共)の教育は人間性に反し、党に仕える道具にするための洗脳に過ぎない」と批判する。家庭・学校・社会の重圧がすべて子どもに集中し、精神的に崩れるのは当然だという。大学に進んでも、コネがなければ就職は難しく、行き場を失った若者が次々と壊れていくと語った。
6月1日にも、安徽省の名門高校に通う高校3年生の成績優秀な女子生徒・馬棫桐さん(18歳)は、高考を目前にして自ら命を絶った。遺書にはこう記されていた。
「私はいつも皆の前では明るく元気にふるまっていたけれど、本当はとても疲れていた。毎日、無理に笑っていただけ」「試験のたびに、父と母が最初に聞いてくるのは『何点取った?』『何位だった?』。親が私のためを思っているのは分かっている。でも、その期待が重すぎて、もう耐えられない」

受験終了後、教科書を破り捨てる「復讐劇」
中国の受験生の間には、こんな「奇習」がある。
大学受験が終わる(合格したら、の意ではなく、試験が終わったら)と、これまで宝物のように大切にしてきた教科書、参考書、ノートなど、とにかく勉強関係のものを全部集め、細かくビリビリに破いて自分の頭上に投げ捨てる、というのだ。
高考までは、まるで命の次に大切な宝物のように扱っていた教科書やノート。しかし試験が終わった瞬間、それらは“燃え尽きた執念”の象徴となり、一転してゴミ同然に扱われる。細かくビリビリに破かれ、頭上から舞い散るその紙吹雪には、勉強への愛情と憎しみの両方が入り混じっているように見える。全力を尽くした末の、叫ぶことすらできない解放感と虚脱だ。その光景を目にすると、見ているこちらまで胸が締めつけられ、ただ、ひと言だけ声をかけたくなる──「本当に、お疲れさま」と。

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