「仕事に行ってくるね」と家を出るが、行き先は「職場」ではなく「働くフリの会社」──中国の若年層のあいだで、そんな現象が急速に広がっている。
1日あたり30元(約600円)を支払い、朝9時から夕方5時まで、オフィス空間で「就業中のフリ」をするこのビジネスは、北京・上海・成都・広東などの多くの都市で急増しており、SNSでも話題だ。
成都にある「働くフリの会社」の運営者は「うちは表向きは商社。でも、実際は大人の託児所です」と語る。まさに「給料が出ないことを除けば完璧なオフィスごっこ」である。
(「働くフリの会社」の実態)
この「会社」では、無料Wi-Fi・冷暖房・座席・コーヒー、偽の給料明細サービスが整っており、勤務中は、スマホやパソコンを自由に使える。しかも「社長」が仕事を「命じるフリ」までしてくれるのだが、その時はキッパリ断っても何の問題もなく、むしろ書類を社長の顔にたたきつける快感まで体験できるという。
背景にあるのは、言うまでもなく深刻な経済低迷と雇用不安だ。失業者は急増しているが、家族に打ち明けられない若者も多く、こうした「出勤のフリ」が体面維持の手段になった。また、商業用オフィスの空室率が全国的に悪化し、不動産投資家たちが「空きフロアの有効活用」として、こうした「疑似オフィス空間」をレンタル提供するケースも急増中だ。
いまや「自分で金を払って出社する時代」になった中国。体裁のために600円を払って出勤する現実に、社会の歪みと、若者たちの静かな絶望が滲んでいる。
(重慶市にある「働くフリの会社」)
(広東省東莞市にある「働くフリの会社」)
(山西省太原市にある「働くフリの会社」)
(上海市にある「働くフリの会社」)
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