科学者たちは、心臓が心臓発作の後に脳へ「もっと眠るように」と信号を送っていることを発見しました。
この反応は回復に欠かせないものであり、10月30日に『Nature』誌に発表された新たな研究によると、「安らかな睡眠は心臓の治癒にとって重要な要素です」と報告されています。
マウントサイナイ医科大学アイカーン医学部の心臓病学助教授、キャメロン・マカールパイン氏はエポックタイムズの取材に対し、「睡眠は心臓へのさらなる損傷を抑え、身体の回復を助けます」と語っています。
「入院中、特に心臓病棟やICUにいる間は、この“休息の必要性”が非常に重要です。退院後の数週間から数か月の間も、十分な睡眠を優先することが大切です。十分な睡眠によって心臓は機能を回復し、長期的な問題を防ぐことができます」
心臓の隠されたシグナル
マウントサイナイのチームがマウスと人間を対象に行った研究により、睡眠が心臓発作後の回復において重要な役割を果たすことが確認されました。
睡眠が許されたマウスは、心拍リズムが安定し、有害なタンパク質のレベルが低く、心機能も良好でした。
一方で、睡眠を妨げられたマウスは、危険な心拍リズムや死亡率の上昇など、深刻な心臓障害を経験しました。
人間を対象とした研究でも、同様の結果が得られました。心臓発作後の4週間に睡眠の質が良好だったと報告した78人の患者は、2年間にわたり心機能が大きく改善されました。退院から6か月以内に行われた心エコー検査では、心臓がより効率的に血液を送り出していることが示されました。
さらに、再度の心臓発作や入院といった深刻な心臓関連の問題も少ないことが確認されました。
一方で、睡眠の質が悪かった人たちは、追加の心疾患リスクが高く、同様の改善は見られなかったと報告されています。
この発見の鍵となるのは、「単球」と呼ばれる免疫細胞を介して心臓が脳と通信する仕組みです。心臓発作の後、これらの細胞は脳に移動し、「TNF(腫瘍壊死因子)」と呼ばれる分子を生成します。このタンパク質は、睡眠・意識・記憶を制御する脳の重要な部位である「視床」のニューロンを活性化します。
このプロセスは、心臓へのストレスを軽減し、炎症を抑えることによって、「心臓損傷後の回復を促す睡眠」を引き起こすと、研究者たちは述べています。
「私たちが明らかにしたのは、睡眠の増加が心臓で起こる交感神経のストレスを著しく減少させ、それによって炎症が軽減され、最終的には心臓の機能が発作前の状態にまで回復する助けとなる、ということです」と、マカールパイン氏は述べました。
交感神経によるストレスは心拍数や血圧を上昇させ、心臓にさらに大きな負担をかけ、炎症を悪化させる原因となります。
心臓の炎症は、心臓の内膜や弁、筋肉、周辺組織を損傷する可能性があるため、心臓発作後の回復には特に注意が必要です。過度な炎症は、不整脈、心不全、冠動脈疾患を引き起こす恐れがあります。睡眠によって炎症をコントロールすることで、心臓はより完全に治癒し、全体的な機能が改善され、長期的なリスクを減らすことができます。
人が眠っている間は、心拍数と血圧が低下し、呼吸も安定して規則正しくなります。
「回復期における睡眠の増加は、健康的な反応として認識されるべきです」とマカールパイン氏は述べました。「医療従事者は、心臓発作後の患者が十分な休息を取れるよう支援すべきです」
2022年、アメリカ心臓協会(AHA)は、健康な心臓を維持するために欠かせない生活習慣「Life’s Essential 8(命を支える8つの要素)」に、新たに「睡眠時間」を加えました。AHAによれば、毎晩7〜9時間の睡眠を確保することで、体重、血圧、コレステロールをより効果的に管理でき、これらすべてが心臓の健康維持につながります。
回復プログラムにおける「睡眠の処方」
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、毎年およそ80万5,000人のアメリカ人が心臓発作を経験し、そのうち約60万5,000人が初めての発作です。これは、効果的な回復対策の必要性を強く示しています。
「多くの心臓管理プログラムでは、睡眠が十分に重視されていないのが現状です」と、マカールパイン氏は指摘します。
「私たちの研究が、医療従事者、現場の実務者、そして患者の皆さんに、回復における睡眠の重要性を再認識していただくきっかけになればと思います。食事や運動などの生活習慣改善と同様に、十分な睡眠を確保することも、回復計画の中心に据えるべきです」
良質な睡眠を得るためのヒント
アメリカ心臓協会の「睡眠ファクトシート」では、以下のような睡眠改善のためのアドバイスが紹介されています:
- 離す:スマートフォンなどの端末はベッドから離れた場所で充電し、気が散る原因を減らす。
- 暗くする:夜間は赤色フィルターを使ったり、画面の明るさを落とすことで、ブルーライトによる刺激を抑える。
- 設定する:就寝準備の時間を知らせるアラームを設定し、夜のリラックスタイムを確保する。
- 遮断する:メールやSNS、ゲームで夜更かししないように、アプリの使用制限を設定する。
- 遮音する:「おやすみモード」や機内モードを活用して、通知などによる睡眠の妨げを防ぐ。
アメリカ人にとっての最大の健康リスク
CDCによると、心疾患はいまだにアメリカにおいて男女ともに死因の第1位であり、毎年70万人以上の命を奪っています。これは、全死因の5人に1人に相当します。
初めて心臓発作を経験する平均年齢は、男性で65.5歳、女性で72歳とされており、年齢とともにリスクが高まります。若年層での発作はまだ少ないものの、アメリカ心臓病学会によると、2019年には40歳未満の人々における発症が、過去10年間で毎年約2%ずつ増加していました。
アメリカで最も一般的な心疾患である「冠動脈疾患」は、心臓発作の大きな原因となります。この病気は、心臓や体に血液を送る動脈に、脂肪などの沈着物(プラーク)が蓄積することで血管が狭まり、最悪の場合、血流が遮断されることがあります。心臓発作は、心筋に十分な血液が届かなくなることで起こり、心臓の損傷や機能低下を引き起こすのです。
(翻訳編集 日比野真吾)
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